ヒヤリハットを「報告して損した」にしない仕組み
「ヒヤッとした」は、大きな事故を防ぐ貴重な情報です
現場で「あぶなかった」「もう少しでケガをするところだった」という瞬間は、どんな職場にもあります。幸い何も起きなかった、いわゆるヒヤリハットです。何も起きなかったからこそ、つい「よかった」で終わってしまいがちですが、実はこの一つひとつが、大きな事故を防ぐための貴重なヒントになります。
ヒヤッとした場所には、たいてい何かしらの原因があります。足元が滑りやすい、機械の置き方に無理がある、指示が伝わりにくい。こうした小さな芽のうちに気づければ、本当の事故になる前に手を打てます。だからこそ、ヒヤリハットは「集めたい情報」なのです。
ところが、多くの現場でこの情報が集まりません。理由ははっきりしています。「報告すると、かえって損をする」空気があるからです。
なぜ、ヒヤリハットは報告されないのか
考えてみれば当然のことです。「あぶなかった」と正直に報告したら、「なんでそんな不注意をした」と怒られる。書類を書かされて手間が増える。自分の評価が下がるかもしれない。こんな空気の中では、誰だって黙っていたほうが得だと考えます。
建設業や製造業の現場では、報告書の様式が細かすぎて、書くのが面倒で誰も出さない、ということもよくあります。飲食業なら、忙しい調理中に「今のヒヤッと」をわざわざ記録する余裕がない。IT業でも、「ミスしかけた」ことを言い出しにくい雰囲気が、同じように存在します。
つまり問題は、現場の人の意識ではなく、「報告すると損をする仕組み」のほうにあります。ここを変えないかぎり、いくら「報告しよう」と呼びかけても集まりません。
まずは「怒らない・簡単に・すぐ共有」の3つだけ
仕組みを変えるといっても、大がかりなことは必要ありません。押さえるのは3つだけです。
1つ目は「怒らないと決める」こと。報告してくれた人には、まず「教えてくれてありがとう」と返す。犯人探しをしない、と社長さんがはっきり宣言することが出発点です。2つ目は「簡単にする」こと。立派な報告書ではなく、一言でいい。「◯◯で滑りそうになった」だけで十分です。3つ目は「すぐ共有する」こと。集めた情報を朝礼で一言紹介するだけで、「報告すると現場が良くなる」と全員が実感できます。
明日できるのは、朝礼などの場で「あぶなかったことを教えてくれた人には感謝する。犯人探しはしない」と、社長さん自身の口で伝えることです。仕組みづくりは、この一言から始まります。
スマホのメッセージ1本で集める、という手もあります
報告のハードルをさらに下げたいなら、道具を使う手もあります。難しいシステムは要りません。現場で使っているグループのチャットや、無料のメッセージアプリに、「ヒヤッとしたことを一言送るだけ」の場所を一つ作るのです。
手が空いたときにスマホで「さっき、資材の角に頭をぶつけそうになった」と送るだけ。写真を一枚つけてもいい。紙の報告書のように机に戻って書く必要がないので、その場でパッと共有できます。集まった声を、月に一度見返して「同じ場所で何度も起きていないか」を確認すれば、危ない箇所が自然と浮かび上がってきます。
まとめ:今日は「教えてくれてありがとう」と言うと決める
ヒヤリハットが集まらないのは、現場の人のせいではありません。「報告して損した」と感じさせる空気のせいです。今日できるのは、報告してくれた人に「教えてくれてありがとう」と返す、犯人探しはしない、と社長さん自身が決めること。この一言が、事故を防ぐ情報が自然と集まる職場への、確かな第一歩になります。
五月雨では、こうした中小企業の業務改善やDXのお手伝いをしています。「安全の声を無理なく集める仕組み」を、現場に合った形で一緒に整えるお手伝いもできればと思っています。
