【自己考察】AI時代の「不自然さ」問題:「手段」か「結果」か、評価軸の混乱
なぜAIの「不自然さ」は炎上するのか
生成AIによる画像がJALのウェブサイトに使われたり、
深夜アニメで不自然な作画が見つかったりといった問題が社会を騒がせています。
AIとは直接関係なくても、絵師の「トレース炎上」問題も度々起こっています。
これらの問題の背景には、技術的な未熟さだけでなく、
「創作物に対する価値観」の根本的な変化と混乱があるのではないか。
この変化を、以前から考えていた
「民族(社会)の感性の変化」という視点から、
「手段」と「結果」の評価軸の混乱として整理しておきたい。
1. トレース問題とAI不自然さ問題の共通項
一見、手書きの盗用問題とAIの技術問題は別物に見えるが、
これらは「見る側の期待の裏切り」という点で共通している。
| 問題の類型 | 批判の焦点(手段への非難) | 批判の焦点(結果への非難) |
| 絵師のトレース炎上 | 労力の詐称:「手書きの努力」と見せかけて、他人の作品を盗用・トレースした手段の不正。 | 結果の品質は高いことが多いが、手段が不正であるため、結果も価値がないと見なされる。 |
| AI生成物・不自然さ炎上 | 品質管理の怠慢:「プロの仕事」と見せかけて、AI任せで人のチェックを怠った手段の安易さ。 | 結果の品質に不自然さ(ハルシネーション)があるため、「手抜き」という手段と結びついて批判される。 |
2. 評価軸の混乱:「手段の倫理」と「結果の品質」の葛藤
現代の創作評価は、以下の二つの軸が激しくぶつかり合っている。
軸1:手段(プロセス)を評価する従来の価値観
- 職人文化の延長線上にある価値観。
- 「どうやって作ったか」「どれだけ努力したか」に重きを置く。
- トレースは、この「労力」と「オリジナル性」という手段の倫理を侵害するため、炎上する。
- (自戒の念):「手間がかかってないものに価値はない」という無意識のバイアスがないか確認すること。
軸2:結果(アウトプット)を評価する現代の価値観
- デジタル・効率化を重視する価値観。
- 「何ができたか」「最終的な品質やスピード」に重きを置く。
- AI利用は、この「効率性」という手段のメリットを最大限に引き出す。
しかし、結果に不自然さ(品質の欠陥)が出ると、即座に批判される。- (自戒の念):AIでも「結果」が完璧なら受け入れるべきか、
不自然な点を見落とす「人間の目」の責任を問うべきか。
- (自戒の念):AIでも「結果」が完璧なら受け入れるべきか、
3. 「民族の変化」=「期待値の再設定」
| 期待値の変化 | 変化の内容 |
| 「労力」への期待値の低下 | AIの普及により、「完璧な絵」を描くことの技術的難易度が劇的に下がった。「手間暇をかけること」それ自体の希少価値が薄れつつある。 |
| 「品質」への期待値の厳格化 | AIがプロ級の品質を簡単に生み出せるようになった結果、プロや企業がリリースする「最終結果」への要求水準はむしろ上がった。「AIを使っておいて、不自然な点を見落とすとは何事だ」という批判が生まれる。 |
今後、創作物に求められるもの
今後、クリエイターや企業に求めるものは、
「手段(作り方)の透明性」と「結果(品質)の絶対性」のバランスになるだろう。
AI時代の新しい評価軸は、
「誰にも指摘されない完璧な結果を出すこと」が最低条件となり、
その上で
「手段(人間がどのようにAIを使いこなしたか、または独自の倫理観を持ったか)」が、作品の付加価値を決める時代になるかもしれない。
制作側として、また見る側として、
「手段の倫理」と「結果の品質」のどちらを重視すべきか、
常に自問自答していく必要がある。
