多能工化は「全員が全部」ではない、正しい進め方
「あの人が休むとラインが止まる」に困っていませんか
「Aさんが風邪で休んだから、今日はあの工程が回せない」。中小の工場では、こんな場面が珍しくありません。特定の職人さんだけができる作業、その人しか段取りを知らない設備。そういう「その人頼み」の状態は、日々の生産に不安をもたらします。急な欠勤、有給の取りづらさ、そしていつか来る退職。考えるだけで頭が痛くなる、という社長さんも多いのではないでしょうか。
その解決策として、よく「多能工化」という言葉が出てきます。一人がいくつもの工程をこなせるようにする、という考え方ですね。たしかに、みんなが何でもできれば、誰が休んでも困らない。理想的に聞こえます。
ところが実際に多能工化に取り組むと、うまくいかないことが少なくありません。その大きな原因が、「全員が全部できるようにする」という思い込みなのです。
「全員が全部」は現場を疲れさせる
全員が全工程を覚える。言葉にすると立派ですが、現場からすると相当な負担です。ただでさえ日々の生産で手一杯なのに、新しい作業をいくつも覚えろと言われる。しかも、覚えたところで普段は使わない工程なら、すぐに忘れてしまう。結局「中途半端に少しできる人」ばかりが増えて、いざというときに使い物にならない、ということが起きがちです。
そもそも、熟練の職人さんが長年かけて身につけた技を、他の全員が同じレベルで習得するのは現実的ではありません。多能工化の目的は「全員を万能選手にすること」ではなく、「特定の人が抜けても現場が止まらないようにすること」です。ここを取り違えると、労力ばかりかかって成果が出ません。
まず「止まると困る工程」を見つける
正しい進め方の第一歩は、全工程を平らに眺めるのではなく、「ここが止まると一番困る」という工程を洗い出すことです。
紙に工程を書き出して、それぞれ「今、何人できるか」を数えてみてください。3人できる工程は、当面心配いりません。問題は「1人しかできない」工程です。その人が休んだら即アウト、という急所がどこにあるかが見えてきます。多能工化は、この「1人しかできない工程」を「せめて2人はできる」状態にすることから始めるのが効果的です。全部ではなく、急所から。これだけで現場の不安はぐっと減ります。
「2人目」を育てる小さな仕組み
急所が見えたら、次は2人目を育てます。とはいえ、まとまった研修時間をとるのは中小の現場では難しいものです。そこでおすすめなのが、日常業務の中に少しずつ組み込む方法です。
たとえば、その工程を担当する職人さんが作業するとき、2人目候補に隣で15分だけ見てもらう。次は簡単な部分だけやってもらう。手順を写真に撮って、簡単なメモを添えて残しておく。完璧なマニュアルでなくて構いません。「思い出すきっかけ」があるだけで、いざというときの復帰が早くなります。教える側の職人さんにも「あなたの技術を残したい」と一言そえると、気持ちよく協力してもらいやすくなります。
今日からできる小さな一歩
まずは工程を書き出して、「1人しかできない工程」に印をつけてみてください。急所が一つでも見つかれば、それが多能工化のスタート地点です。全員が全部を目指す必要はありません。「一番困る工程を、あと1人」。この小さな目標なら、現場も無理なく取り組めます。
五月雨では、現場の実情に合わせて「どこから手をつけるか」を一緒に整理するお手伝いもしています。もし進め方に迷うことがあれば、気軽に相談していただければと思います。
